外資系勤務の「英語力」という虚構がVERSANTによって崩れ去った日

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前回の記事で、ある種の躁状態の中で「英語学習のやり直し」を高らかに宣言した私だが、案の定、具体的なアクションプランの策定というフェーズで思考が停止した。闇雲に参考書を買い込んだところで、それが部屋のインテリアになる未来しか見えないからだ。そこで、まずは自身の絶望的な現在地を正確に測るべく、VERSANTというテストを受験してみた。本稿は、その無残な結果と、外資系企業に潜伏する「英語難民」の実態、そしてVERSANTという残酷な測定器の有用性についての記録である。

— 以下本文が続く —

英語やり直しという名の「儀式」

そもそも、この手の「英語やり直し」決意表明などというものは、正月にジムの入会手続きをするのと同程度の儀式であり、大抵は参考書を数ページめくっただけで、自分は何かを成し遂げたという錯覚に浸って終わるのが関の山だ。これまでと同じように、漫然と参考書を眺めるだけの「勉強ごっこ」を続けたところで、失われた10年が20年に伸びるだけであることは火を見るよりも明らかだ。

本気で事態を打開したいのであれば、自身の現在地を正確に把握し、目的地(目標レベル)との距離を測る必要がある。しかし、私はこの10年間、TOEICや英検といった「客観的な指標」から逃げ回り続けてきた。なぜか。「外資系企業勤務」という、世間一般から見ればキラキラとした(実際は泥臭いのだが)看板と、自分自身が一番よく知っている「絶望的な英語力」との間に横たわるグランドキャニオン級の落差を、数字として突きつけられるのが怖かったからだ。要するに、ただの現実逃避である。

だが、もはや背に腹は代えられない。己の無能さを直視するマゾヒスティックな儀式として、今回はTOEICではなく、VERSANTというテストを選んだ。

絶望を可視化する「VERSANT」という選択

VERSANTについてご存知ない方のために、なぜ私が数あるテストの中からこれを選んだのか、その合理的な理由――あるいは言い訳――を整理しておこう。このテストは、現代人の「忙しい」という常套句を封じ込めるように設計されている。

  • スマホアプリで24時間いつでも受験可能: わざわざ休日に試験会場まで出向く必要がない。つまり「時間が取れない」という言い訳が通用しない。
  • 試験時間は約20分: カップラーメンが出来上がるのを待つ間に終わる……とは言わないが、隙間時間で完結する短さだ。
  • AIによる自動採点で即時結果判明: 受験直後にスコアが叩き出されるため、結果待ちの間の淡い期待を抱く猶予さえ与えられない。
  • 「聞く・話す」に特化: 日本人が得意なリーディングによる点数の底上げが不可能。

TOEICのように「対策テクニックで点数を嵩上げするゲーム」が通用しにくい分、実力が残酷なまでに露わになる。多くのグローバル企業が採用時のスクリーニングに使っているという点も、私のドM心をくすぐるには十分だった。読み書きよりも、喫緊の課題である「聞く・話す」能力を測るにはうってつけだ。何しろ、毎週の定例ミーティング――海外メンバーとの会議――が近づくたびに、パブロフの犬のように吐き気を催している現状をなんとかせねばならないのだから。

ZOOMの字幕機能という「生命維持装置」

実のところ、私の会議における理解度は半分にも満たない。ネイティブ同士が高速で展開する議論など、ただのノイズである。

それでも私がクビにならずに済んでいるのは、ひとえにテクノロジーの進化、具体的にはZOOMのリアルタイム字幕機能のおかげだ。流れてくる字幕と手元の資料を必死に見比べ、文脈を推測する。これはもはや会議ではなく、高度な情報処理パズルである。

最悪なのは、そのパズルの最中に意見を求められた時だ。自分でも何を言っているのか分からない片言の英語(のような音)を、さも深遠な意見であるかのような表情で吐き出す。すると、画面の向こうのネイティブたちは一瞬の沈黙の後、「まあ、よく分からんが次へ行こう」という慈悲深い空気を醸し出し、私の冷や汗を乾かすように議論を流してくれる。この「なんとなくやり過ごすスキル」だけで10年生き抜いてきたのだから、ある意味では賞賛に値するかもしれない。

90点満点中47点という「現実」

さて、そんな綱渡りの日々を送る私の英語力は、数値化するとどうなるか。 結果は、90点満点中47点であった。

公式サイトのデータによれば、日本人の平均が40点、海外赴任レベルが43点。そして、グローバル企業の採用基準が59点である。 47点。「平均よりは上だが、グローバル人材としては箸にも棒にも掛からない」という、実に中途半端で、かつ救いようのない数字だ。

職場外の人から「外資系だから英語ペラペラなんでしょう?」などとおだてられるたびに、「いやあ、それほどでも」と謙遜するふりをして内心安堵していた自分が恥ずかしい。VERSANTは、そんな私の「メッキ」を容赦なく剥がしにかかったわけだ。自分の英語力に自信がない、あるいは私のように過大評価されている自覚がある読者諸賢におかれては、ぜひ一度このテストを受けてみることをお勧めする。心地よい自己欺瞞の夢から覚めるには、これ以上の劇薬はない。

結論:学習プランと再就職活動の同時並行

目標は定まった。この1年で、グローバル企業の採用基準である59点を超えること。これは「目標」などという生易しいものではなく、「生存条件」である。

本来、その場にいる資格のない人間が、生き馬の目を抜くようなグローバルチームに紛れ込んでいる。その恐怖と向き合いながら、私は英語学習の計画を練ることにする。同時に、スコアが伸びなかった場合に備えて、英語を使わなくて済む再就職先のリサーチも始めておくのが、リスクヘッジの基本というものだろう。

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